白金台のチェコ製ピアノ「ペトロフ」専門店のピアノプレップによる、きわめて普通な方向を突き詰めた精密調整で仕上げられた、ごく普通のペトロフ製173cmグランドピアノで弾いた、亜米利加の作曲家:マクダウエル/MacDowell (1860-1908) による小品集『森のスケッチ』から、第1曲「野ばらに寄す」です。
生楽器というシロモノは、周囲の環境の変化に応じて常に動き続けています。そのいわば動的バランスの妙は、実は工場出荷の時点では半製品ですらないとさえ言える、なかなかシビアな世界だったりします。ですから、マトモな生楽器とマトモな販売店、そして可能ならばマトモな温湿度管理は三位一体、そこに関わる人々による丁寧な作業と愛情が不可欠で、絶対的に時間が必要とされる世界です。
このような楽器という実にファジーな「生き物」を昨今のせわしない世の中で扱うにあたって、常に「現代的な抜け目ない効率」とのせめぎ合いで販売がなされる、というのは当たり前のことです。その抜け目ない世界の中で安易に安売りに走ることなく敢然と丁寧に精密調整を行い続ける販売店はなかなかありませんが、その矜持に最大限の敬意を払いたく思います。
そして同時に、エンドユーザーに対しても、安いのにはちゃ〜んと理由があり、高い値引率にもちゃ〜んと理由がある、と声を大にして伝えたいです。「努力して安くする」のではなく「努力しないから安くできる」のであります。「安くて良いもの」なんぞ、この世の中に存在するはずがございません。
・・・高けりゃナンでもイイわけでもございませんが。めんどくせ〜(^o^;
大恐慌以来(って大げさと思うなかれ)もはや「音楽」や「楽器」ひいては「芸術」に対していくらでも手間ひまをかけられる時代ではなくなってしまい、昨今その傾向が悲劇的にまで加速してしまいましたので、残念ながら丁寧な取り組みが馬鹿を見ることが多くなってしまいました。しかし、そもそも楽器とは昔の人たちが想像を絶するほどの経験をつぎ込んで改良に改良を重ねてさらに時間による厳しい淘汰に耐えて生き残ってきた結果なのですから時代が変わってもその扱いが変わるはずはなく、その手間ひまや時間を尊重せずして素敵な結果は絶っ対に得られません。
この万事忙しく抜け目なくなってしまった現代、少なくとも自分の音楽の周りには丁寧さを第一にできるようなゆったりした時間が流れていて欲しいなぁ・・・と願いつつ、昔ながらの「木の響き」をお楽しみください。
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