中島みゆき 作詞/作曲『India Goose』ピアノソロ:1894年ベーゼンドルファー社製ピアノ(ウィーン式アクション/85鍵)で
中島みゆきの『India Goose』を、いつもの1894年製ベーゼンドルファーで弾きました。
『India Goose』は2014年10月に発売されたアルバム《問題集》のラストを飾る曲、このアルバム《問題集》の2曲めはNHKの朝ドラ『マッサン』の主題歌の『麦の歌』で、覚えている方も少なくないのではないでしょうか。そして『India Goose』は翌月公開だった《夜会 VOL.18「橋の下のアルカディア」》のラストを締めくくる大曲でもあります。中島みゆきは《夜会 VOL.18「橋の下のアルカディア」》について、「今回は、テーマが"捨てる"なんです。"捨てる" "捨てられる"。その両方ですね」と語ったとのこと。何かを得るためには何かを失わなければならぬというのが冷厳な現実とはわかっているつもりですが、いざ自分の身に突きつけられると正面から向き合うのは至難の業。ワタクシのような凡人はどうしても逃げやごまかしに走りがちですが、なぁにかまいませんや。それでも死ぬまで生きていかねばならぬのが人生ですからね。今年こそ断捨離しなきゃと思って何年経ったことやらw
さて India Goose ってなんじゃらほい、と検索してもこの曲ばかりが出てくるのですがそれもそのはず、単に「インド」「雁または鵞鳥」と名詞が2つ並んでいるだけですからね。インド雁の学名は ‘Anser Indicus’ で Anser は「雁」、Indicus は「インドの」という意味なので英訳が Indian Goose となり、日本人向けwだし India Goose で・・・とゆ成り立ちと邪推できます。ちなみに英語ではインド雁のことを "Bar-headed goose" と言いまして、そりゃ検索に「インド雁」が出てこないのも当然でしょう。
さて、インド雁はモンゴル高原で繁殖して冬は越冬のためにインドで過ごします。その長い長〜い飛行の間には、そう、チベット高原とヒマラヤ山脈があるんですね〜 (`・ω・´)
1953年、ヒラリーとテムジンが世界で初めてエベレストに登頂しました。この時の登山隊の一人が「エベレストを越えていく雁を見た」と語ったとのこと(ヒマラヤじゃないの? と突っ込みたくもなりますがw)。8000mの高さでは気圧は平地の3分の1程度で、当然酸素の絶対量もそれに応じて少ないわけです。加えて空気の密度が低いので羽ばたいて揚力を得るのは困難を極めます。そのため空気の密度が高い夜に飛ぶことも多いとか。そう言えば、木曽御嶽山の噴火での救出作業のとき、高度3000mでホバリングできた日本のヘリコプター操縦技術が世界で神とあがめられたとかなんとか。
渡り鳥は年に2度の決死の旅を生涯続ける存在で「覚悟の象徴」とされるのは当然でしょう。それに加えてインド雁の渡りは薄い空気の中を何日も飛び続ける過酷なものですが、そこには「悲壮な決意」だけでなく「無限の勇気」をも感じますね。この唄もまことに強いこと強いこと。
<次の次の北風が吹けば 次の峰を越えてゆける
ひとつひとつ北風を待って 羽ばたきをやめない>
導入としてまことに簡潔な場面説明。インド雁の生態を知らない聴き手(ワタクシもそうでした;;;)にとっても峰を越す渡り鳥のことを詠んでいることがわかります。不特定多数に届けさせるためには一読しておおむねの意味が取れることと深読みしようと思えばできるという両側面を備えていないとならん、という好例と思います。
<さみしい心先頭を飛んで 弱い心 中にかばって
信じる心いちばん後から 歌いながら飛ぶよ>
強い強いこの詩の中でのこの2行、とりわけ美しく印象的と感じるのはワタクシだけでしょうか。中島みゆきはここで声音と語り方を優しげな雰囲気に変えていますが、いやホンマ、見事の一言に尽きます。えてして狭い世界に閉じこもりがちなクラシック音楽な方々も、このような総合力に驚ける程度の判断力を備えてほしいモノです。そして<歌いながら飛ぶよ>で締めるとは、なんというセンスでしょう!
<ほら次の雪風にあおられて
小さな小さな鳥の列が なぎ払われる
小さな小さな鳥の列が 組み直される
飛びたて 飛びたて 戻る場所はもうない
飛びたて 飛びたて 夜の中へ>
この5行こそがサビですが、普通は偶数行数で構成されるところをあえて破格の奇数行にしているのが興味深いですね。また<なぎ払われる>→<組み直される>という行動が暗示するインド雁の不屈の魂はそれが<小さな小さな鳥の列>であることでさらに強い印象になっているように思えます。そう言えば、中島みゆきの「不屈の魂」に対する応援歌はまことに勇ましく力強く、そして愛情にあふれていますね。
<望みの糸は切れても 救いの糸は切れない
泣き慣れた者は強かろう 敗者復活戦>『倒木の敗者復活戦』(2012年)
<その船を漕いでゆけ おまえの手で漕いでゆけ
おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな>『宙船』(2006年)
<暗い水の流れに打たれながら 魚たちのぼってゆく
光ってるのは傷ついて はがれかけた鱗が揺れるから
いっそ水の流れに身を任せ 流れ落ちてしまえば楽なのにね
やせこけて そんなにやせこけて魚たちのぼってゆく>『ファイト!』(1983年)
さて第二番、ここでようやっと「逆風」というキーワードが出てきます。冷静に考えるとヒマラヤをインドに向けて越えるときは北風では逆風にならないのですが、まぁそこはイメ〜ジっつことで。消されるかな (((( ;゚Д゚)))
<強い鳥は雪が来る前に 既に峰を越えて行った
薄い羽根を持つ鳥たちは 逆風を見上げる
いつの風か約束はされない いちばん強い逆風だけが
高く高く峰を越えるだろう 羽ばたきはやまない>
空気の密度の低い超高度を翔る<小さな小さな鳥>たちですから、逆風を巧みに使わないと<高く高く峰を越える>のは困難。ですが、あくまでも逆風ですから先に進めないというリスクと向かい合わせ(隣り合わせではナイw)なんですよね〜。弱く小さき者たちであるからこそ宿命に立ち向かわざるを得ない場面に頻繁に遭遇するものでして、まぁ、なんつ〜か、やるっきゃないんですわな。とほほ。
<負けんもんね 負けんもんね
負けとる場合じゃないんだもんね>『負けんもんね』(2010年)
« 激安アボカド納豆パスタ | トップページ | Lee Conklin Reed Organ Museum の Taber Organ 社1890年ごろのリードオルガンで、Lemmens『オルガン教本』で足鍵盤なしのオルガンのために編まれた第1部所収の『13 pièces diverses』第6曲『Sortie』を »
« 激安アボカド納豆パスタ | トップページ | Lee Conklin Reed Organ Museum の Taber Organ 社1890年ごろのリードオルガンで、Lemmens『オルガン教本』で足鍵盤なしのオルガンのために編まれた第1部所収の『13 pièces diverses』第6曲『Sortie』を »
コメント