中島みゆき 作詞/作曲『36時間』ピアノソロ:1894年ベーゼンドルファー社製ピアノ(ウィーン式アクション/85鍵)で
中島みゆきの『36時間』を、いつもの1894年製アンティークベーゼンドルファーで弾きました。
この『36時間』は2015年のアルバム《組曲(Suite)》のトップを飾る曲ですが、キャッチーな曲調とは無縁なまことに穏やかな曲。ですが、出だしの<1日は36時間と決めたんです>という歌詞が実にキャッチーですわ。
<出来ることが まだ間にあう し残したことが まだ間にあう>
ここまでは「生き急ぐな」という万人に通ずるごく普通の指摘、ナニもいまさら中島みゆきが詠むまでもない、とっくに言い古されている歌詞に過ぎない・・・のですが・・・
<ゆっくりゆっくり 悲しみは癒えるだろう
大切に大切に 愛する人と歩くだろう
おそるおそる 人は変わってゆけるだろう>
このように「大切な人との時間そして関係をじっくり紡ぐこと」に意識を向けさせられるのが、やはり中島みゆきの歌詞でありま〜す。時を経ても変わらぬ関係は存在し得ないとは言え、それぞれがたとえゆっくりとでも、否、むしろ時間を充分にかけて修正し続けることこそが人生を生き続けることに他ならないのでしょう。ここで思い出させられるのが『慕情』の出だし。『慕情』が《組曲(Suite)》の次のアルバム《相聞》のラストに入っていることと無関係ではなさそうな(・o・ゞ
<愛より急ぐものが どこにあったのだろう
愛を後回しにして何を急いだのだろう>(『慕情』2017年)
確かに人生にはやらなきゃならんことがあふれていますが、自分の生についてしっかりと考えている人にとって、本当に心を注ぐべきは<愛>なんですよね。日々の些事にかまけてしまうことは本当に心を注ぐべき対象を見失うことに他ならず、それを見失ってしまったら心を失って自分が自分でなくなってしまいます。これこそが「生き急ぐこと」の恐ろしさなのではないでしょうか。
<追いつめられた心たちよ 36時間に来ませんか>
とは言え、現代社会を生きていれば生き急がぬ余裕なんぞ誰もが持てるハズもなく、心が追いつめられてしまっている方も少なからずでしょう。中島みゆきの慈愛に満ちたまなざし、まことに心に染みます。世の中の人すべての心に、少しでも余裕が生み出されますように。
<1日の中に1年を詰め込む
急ぎすぎる日々が欲望を蝕む
隙も見せられない警戒の夜が
いつか涙さえも孤立させてゆく>(『泣いてもいいんだよ』2014年/唄:ももいろクローバーZ)
それにしても、慈愛に満ちたまなざしを見せるかと思えば『36時間』発表の前年にこんな歌詞を現代の忙しさそして生き急ぎの象徴たるアイドルグループに歌わせる中島みゆきって、辛辣なのか挑戦なのか揶揄なのか、いやはや、もう笑っちまいますね〜ヽ( ̄▽ ̄)ノ
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